平成18年69ページ

はじめに
江戸時代の国立は、甲州街道沿いに村々を形成し、名主を中心として生活を営んでおりました。このうち下谷保にある本田家は江戸の中期にこの 地に根を下ろし、以降医者・名主・文人として名を馳せ、当代まで十六代を数えます。 現在に至ってもなお名家であり、近隣から尊ばれるというお 宅であることからも、歴代御当主の人柄が仁徳深いものであったことが推察されます。
今回、本田家歴代のご紹介と、幕末に生きた覚庵、明治自由民権運動期に活躍した定年の事蹟を資料を通じて展覧し、国立および多摩地域におけ る本田家の活動の一端をご案内いたします。
徳川家康が江戸に幕府を開いてより、多摩地域は直轄地として首府防衛機能を持ち、または、生産供給地として、水源供給地として、江戸城他の 築城に関わる石灰や、薪炭等の供給地として多面的に支える地域役割を果たしてきました。
この首府防衛機能に関しては、幾世代かを経て徐々に衰微しながら幕末を迎えます。 そして、嘉永六年の黒船来航を機に多摩地域が本来期待され てきた防衛機能の強化が図られ、 下谷保本田家も名主としてその職責に当たるのです。この時代に多摩に新選組局長近藤勇・土方歳三らが出現する のも、この地域性によるものといっても過言ではありません。また、明治を迎え自由民権運動の一大拠点となる土壌も、すでに幕末期にその萌芽が あったと考えられます。
このような時代性土壌の中で、本田覚庵、そして息子である定年がどのように生きたのか豊富な文献文書資料を通じ展覧できますこと、望外の喜 びであります。
本田家の人々は医者・名主・文人と様々な側面を持ち、今回はその導入として位置づけ、この展覧が契機となり、今後の研究等の発展につながる ことを希望します。

今回の展示に当たっては、御当主本田味夫様の真摯なるご協力なくして実現できませんでした。また御母堂本田ヤヱ様、味夫氏夫人雅子様ご家族 の皆様にこの場をお借りし、驚く御礼申し上げます。
本展準備に当たり、くにたち拓本の会、古井戸良雄氏、小島政孝氏、佐藤福子氏、菅野則子氏、 関 保寿氏、 関 紀夫氏、十松 勇氏、中小路純 氏、谷保古文書の会(五十音順敬称略)の皆様に、ご指導ご協力いただきました。心より、謝意を表します。
くにたち郷土文化館