昭和52年　226P

刊自序
山口市鋳銭司にある潮満寺は、大村益次郎の旧宅を移し建てられた寺である。潮満寺は明治のはじめ、社寺合併の あったとき、本寺の小鋳禅昌寺に合併され、堂は解きはらわれたのであった。明治十九年、地区の者たちが、その復 興を思いたち、ちょうど空屋になっていた大村益次郎の家を解体し、その材料で寺を再建した。その大村の居宅は、 大村が長州藩に仕えるようになって、鋳銭司天神原の地に建てたものである。大村の死後は、その妻コトが家を守っ ていたが、近くに隣家がなかったので、不用心であるからと、コトは生家の近くに家を新築し、そこへ引き移り、大 村の居宅は空屋となってしまったのである。それを潮満寺をつくる材料としたのであるが、その時襖などの建具も一 緒に移されて使用された。

この襖の下張りに、大村文書が張りこまれているということは、この襖を張る手伝いをしたといわれる前田直吉翁 も、生存中そのことを話していたというし、また昭和十年頃の新聞に、このことが大々的に発表されたので、それを 知っている者も多くあった。そこで好事家が寺を訪れ、はぎ取ったものもだいぶあった。またその後、寺は一時無住 にひとしい時代もあったので、この時にも多くの散逸があったようである。

昭和二十九年、当時私は鋳銭司公民館に勤務していたが、この文書を早く保護しなければ、そのうち全部散逸して しまうのではないかと考えて、寺の住職、総代の方に相談して襖の張り替えをし、出てきた資料を整理したのである。 その襖は、普通の大きさのもの十四枚、小さいもの(普通の襖を半分に切ったもの)が四枚であった。しかしその襖 も、片側全部がはぎとられていたものも数枚あり、所々に破損の箇所があるものも多かった。

大村益次郎【おおむらますじろう】
幕末・維新期の軍政家，明治軍制の創設者。旧名は村田良庵，のち蔵六。名は永敏と称す。長州藩の医者の子。大坂の緒方洪庵の門で蘭学と医学を学ぶ。宇和島藩主伊達宗城の推挙で幕府の蕃書調所に仕えたが，長州藩に呼び戻され，同藩の兵制改革に力量を発揮。第２次長州征伐，戊辰(ぼしん)戦争で軍事指導に才腕をふるう。明治政府の兵部大輔として藩兵解散，徴兵制実施，鎮台・鎮守府の設置など近代兵制の樹立に尽力したが，その急進性が守旧派の反感を買い，1869年反対派士族に襲撃され，その２ヵ月後に死亡。彼の構想は山県有朋らに受け継がれた。

出典　株式会社平凡社百科事典マイペディア

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