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渡辺始興
わたなべしこう
（1683―1755）

江戸中期の画家。通称求馬。京都の人。1708年（宝永5）ごろから近衛家煕(このえいえひろ)に仕える。絵は初め狩野(かのう)派を学び、のち光琳(こうりん)の影響を受けてその装飾画風をも得意とし、両者を巧みに使い分ける。ことに光琳様式の継承者としては、江戸を中心に栄えた後期琳派のなかで、ひとり京都でその伝統を保持した画家として注目される。遺品には狩野風の達者な筆遣いを示した水墨画が多く、また奈良・興福院(こんぶいん)の障壁画もよく知られる。一方、琳派風のものでは、京都・大覚寺(だいかくじ)の障壁画（耕作図杉戸絵や兎(うさぎ)図障子腰板絵(こしいたえ)など）、『燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)』（クリーブランド美術館）、『吉野山図屏風』などが代表的である。また『春日権現霊験記(かすがごんげんれいげんき)』20巻を模写するなど、大和(やまと)絵の素養をもち、さらに『鳥類真写図巻』のような写生画を描いて、円山応挙(まるやまおうきょ)に影響を与えている。

［村重　寧］

出典　小学館　日本大百科全書(ニッポニカ)

開館40周年記念特別展
渡辺始興京雅の復興
開催にあたって
大和文華館館長
水田徹
記念すべき西暦2000年の今年、大和文華館は開館40周年を迎えます。 これもひとえに 皆様方のご厚情とご支援の賜物であり、先ずはここに心より御礼申し上げます。
さてその開館40周年記念特別展として、 今秋は、平成5年度の特別展 「松花堂昭乗」 以来7年ぶりに江戸の絵画に着目し、江戸中期の京都の画家・渡辺始興を取り上げるこ とに致しました。渡辺始興は若くして狩野派の画技を身につけ、25歳頃からは当代随一 の文化人ともいうべき近衛家熙の薫陶を受け古典に親しみ、あるいは花鳥の写生に勤し みました。 同時にその画風から、おそらくは尾形乾山を通じて、琳派の画風にも通暁し ていたと考えられ、平安以来の京の雅の世界をあらゆる角度から入念に学び、それを復 活させた画家ということができましょう。
しかも始興の作品をつぶさに観察すると、 その画業は狩野派と琳派の画技を単に折衷 したという判断では律し切れない、 独自の美意識も確立されていると考えられます。 例 えば「春日権現霊験記絵巻」の模写は細密をきわめ、 その作業は全20巻に及ぶというよ うに、古典の学習は徹底しており、 その成果は始興の全作品に、中庸と品格という古典 芸術の基本性格を与えることになっていると思われます。 彼の写生も生半可なものとは 思われません。 「四季花鳥図押絵貼屏風」に描かれた鳥たちは、その静動がつめ先の描写 にまで及んでおりますし、 「鷲図絵馬」 の鷲の胸の輪郭の取り方は写実を超え写意にさえ 至ると見えます。 さらに 「吉野山図屏風」は明らかに琳派の延長線上に位置しながら、 山と桜の配し方には先述の古典の様式と精神が脈打っているように見受けられます。 ま た、 「松に百合図襖絵」は狩野派の伝統に則りながら、 松の生え際の緑と茶と黄の色感と 色面対比は誠に斬新で、 写楽、 北斎、 広重を経て遠く印象派にまで至る近代性の萌芽さ え感じさせます。
本展を担当した当館学芸部課長中部義隆の積年の調査により、幸い多数の新出作品も 発見され、 展示できることとなりました。 渡辺始興芸術の全貌をじっくりご鑑賞いただ き、江戸絵画史の展開をご議論いただけますれば、館員一同、 これに優る喜びはござい ません。
最後になりましたが本展開催に際し貴重なご所蔵品、 ご寄託品を貸与いただきました 東京国立博物館、 京都国立博物館、 兵庫県立歴史博物館、静岡県立美術館、根津美術館、 畠山記念館、 出光美術館、サントリー美術館、 藤田美術館、 萬野美術館、 細見美術館、 陽明文庫、大覚寺、 峰定寺、三時知恩寺 圓光寺、 圓照寺、 興福院および個人所蔵家の ご厚意に対し、深く御礼申し上げます。


表紙小傷程度で特に目立った傷や汚れはありません。

なお細部に至るまではチェックしきれない場合がありますので、書き込み・線引き・記名・蔵書印・値札等ある場合があります。
また複数冊ご購入いただいた場合同梱発送を予定しております。ご理解のほどよろしくお願いいたします。