平成2年　31ｐ

はじめに
『枕草子』に「御簾よりはじめて、きのふかけたるなめり、御しつらひ、獅子狛犬など、い つのほどにか入り居けむとぞ、をかしき」とあり、また「栄華物語』には「このたびは藤つぽ の御しつらひ、大床子たて、御帳のまへの獅子狛犬なども、つねのことながらとゞまりたり」 と記されることからも分かるように、獅子狛犬(本書では狛犬の名で統一)は御簾や几帳の裾のあ おり止めの鎮子として置かれ、平安貴族たちにとってはまことに親しみ易い室内調度のひとつ であった。この時期のわが国の狛犬は、その源流である大陸諸地域で見られたような獰猛な獣 性はすっかり影をひそめ、誰もがなつかしく眺めることのできる穏やかな表情が求められた。 これが狛犬にとっての和様である。
狛犬は仏像などと違って遺品はごく少ない。特に平安時代前期のものが今のところまったく 知られていないのは致命的であるが、藤原時代から鎌倉時代の優品が数点のこっており、 和様 化とその後の展開についてはあるていど知ることができる。そのような変遷を辿ろうとしたの が特別陳列「狛犬」である。出陳点数は限られているものの、この期の名作をかなり網羅して いる。これにより狛犬の研究が一段と進むことを希望するとともに、ご出疎いただいたご所蔵 者の方々に感謝の意を表する次第である。
平成二年一月
京都国立博物館

表紙小傷、薄い折れ線。本体に軽度の反りあり。もちろん読む分には問題ありません。

なお細部に至るまではチェックしきれない場合がありますので、書き込み・線引き・記名・蔵書印・値札等ある場合があります。ご理解の上、ご購入下さい。