日本で発行される一般向きのチョウの図鑑は似たりよったりのものが多 い。 日本のチョウの種の同定の問題は一通り片づいているし,その識別も すでに一般的な知識にまでなっているので,中・高校生でも熱心なものは 一見してその名前が言える程度にまでなっている。 チョウの各種の色彩・ 斑紋や分布,生態, 食草などは誰が調べても同じことになるはずでした がって誰が書いても同じことになるはず),そういう事柄を正確に記述した スタンダードになる本さえあれば,そして一通りの標本さえ揃えれば,極 端に言えば高校生でも図鑑が出版できるわけである。それぞれの図鑑は解 説の中に自己の経験などを織りこんでいくらかのニュアンスの違いを出し
ているにすぎない。
本書はこれまでのそうしたゆきかたにあきたらず,きわめて意欲的に類 書と違った面を打ち出そうとしている点でユニークなものである。いまま での図鑑の解説には出されなかったチョウの形態を精説し,“科・属の特徴” を記載し,雄の交尾器の形態を日本産全種について(ときには関連のある 外国種についても)図示し,主として雄交尾器の形態に基づいて, 属の分 類に関してこれまでのものと違った多くの結論を出している。これは新し い問題の提起として日本のチョウ学界のために喜ぶべきことであろう。私 としてはこの書に示された属の分けかたについて現状では全面的に賛成で きない点もあるが(従来のルリシジミ属を分割したことや, ヤマトシジミ とハマヤマトシジミの別属への分離など),この書で断行された属の分割・ 併合の多くの部分は私自身でもすでに示唆したことがあるように妥当なも のが多い。 要するに本書は徹底的に形態 (主として雄交尾器) に依存して 属の分類を行ったことに特色があるので, 日本のチョウ研究者には問題を 提起する意味のある出版と言えよう。

外箱傷、小汚れ。ページ小黄ばみ。

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