2002年　106P

はじめに

2001年3月24・25日に奈良大学で行われたシンポジウム「重源のみた中世」の内容が冊子になりました。当日行われた発表を元に、新たに書き下ろされた論文7編を収録し、充実した内容になっております。

1997年に奈良大学で行われたシンポジウム「中世集落と灌漑」を端緒に毎年行われているシンポジウムですが、これまでの流れを整理してみると、「中世集落と灌漑」において、集落構造に体現される在地構造の変質が13世紀後半~14世紀を中心として急激に進行することが明らかになりました。その本質と変化の論理を探るべく1998年にはシンポジウム「叡尊・忍性と律宗系集団」を実施し、鎌倉後期-南北朝期の変革がいかなる論理で進展したかについて、律宗をとおして討論しました。そして1999年には「多聞院英俊の時代」をテーマとし、先の変革が中 世後半期的なものとしていかに受け継がれ、展開していったかを討論しました。

今回の「重源のみた中世」は逆に中世前半期-後半期の変革を生み出したものはなにかという所に戻り、中世前半期のなかに内包される変革への序章を、重源という個人を通して幅広く検討してみたものです。東大寺復興で著名な重源は、それまでの古代的・王朝的枠組みが中世的な枠組みへと転換する画期に活躍した人物です。彼の活動はそれまでの体制を再編成し、勧進の大規模組織化という従来にない組織形態を生み出しました。その背景には東における武家社会の成立と、西における王朝国家の中世的変質、そしてそれに伴う産業・技術・思想など の大規模転換が存在したものと考えられます。逆にいうなら重源という人物を通 してみられる様々な現象を分析することによって、中世成立過程と、その本質が見えるのではないでしょうか。

本書はこのような目的で編まれたものですが、読者は執筆者によって様々な中世像があることに気づくでしょう。冊子『多聞院英俊の時代』序文においても記したとおり、日本の中世像は多様な研究視点が錯綜しているのが現状です。編集を終えて振り返ってみるならば、本書が目的としたものはその収斂ではなく、やはりその多様性自体の提示にあったといえるかもしれません。学界全体の大きな 流れが、いずれ渾沌から収斂へと向かおうとする時、本書が中世史研究のワンステップとしてあらためて認識されるならば、編集者としては望外の喜びです。

最後に、今回執筆頂いた諸先生、シンポジウムの開催にあたり様々な便宜を 図っていただいた奈良大学および同大学・植野浩三先生、当日シンポジウムに参 加いただいた方々に厚くお礼申し上げます。

中古品ですので傷・黄ばみ・破れ・折れ等経年の汚れはあります。表紙小傷。もちろん読む分には問題ありません。26301

なお細部に至るまではチェックしきれない場合がありますので、書き込み・線引き・記名・蔵書印・値札等ある場合があります。ご理解の上、ご購入下さい。