恋愛哲学者モーツァルト
岡田暁生
新潮選書
定価: ￥ 1100+税

本書は『後宮からの逃走』から『魔笛』に至るモーツァルトの五つの喜劇オペラを、”恋愛五部作” として読み解こうとする試みである。……。
『後宮からの逃走』『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『コシ・ファン・トゥッテ』『魔笛』…この五つのオペラは、単に偶然的にこの順で並んでいるのではない。……
〈はじめに　より〉



単刀直入にいえば《コシ》は、スワッピングのお話である。二組の熱烈に愛し合っている男女がいて、男たちは自分の恋人ほど貞節な女性は世の中にいないと信じ込んでいる。……

よく知られたことだが、《コシ・ファン・トゥッテ》の題名は、《フィガロの結婚》に由来している。第一部で美少年ケルビーノを部屋に連れ込んでいるスザンナを見て、音楽教師バルトロが歌うセリフ「コシ・ファン・トゥッテ(女はみんなこういうことをするものでございます)」が、このオペラのタイトルになったのである。……

……。このように18世紀後半のウィーンの劇場人にとって、「パートナー交換」は極めて身近な流行の主題だったわけである。

「想像力で刺繍された」愛の美しい上澄みの底には、動物的本能という下部構造が蠢いている。……。ヴォルテールいわく、「…、君が飼っている……おとなしく待ちかまえ、尻を向けて受け入れ体勢をとる牝馬のところへ……ひかれてくる猛々しい牡馬を視つめたまえ」。以下この調子で続く延々と続く叙述は、……今日なお、思わず赤面してしまう赤裸々さである。ヴォルテールは人間の愛に、動物のそれに対する優越性を与えはする。だがそれは、動物とは違って、人間の愛に理性があるからではない。それどころか、「君はたえず愛に身をまかせうるが、動物には一定の期間しかない」という点、さらには身体の手入れによって「皮膚をより繊細にして接触の楽しみを増大し」、あるいは「欲望器官をいっそう敏感にする」点にこそ、ヴォルテールは「自然から授かったいっさいのものを完成する才能を享けている人間たち」による「愛の完成」を見るのだ。
〈第5章「《コシ・ファン・トゥッテ》と男女の化学結合」より〉

➜マリヴォー『愛と偶然との戯れ』、
ラクロ『危険な関係』、ディドロ『不謹慎な宝石たち』、ゲーテ『親和力』

斬新な視点から核心に斬り込んだエッセイ！

美品