トヨタ中国の怪物 豊田章男を社長にした男 児玉博／著



日本人として1943年に満州で生まれ、戦後も中国に残り辛酸を嘗めた後1970年に帰国。後に、トヨタ中国の総代表となって「豊田章男を社長にした男」と呼ばれる服部悦雄さんという人の半生を描いたドキュメンタリーです。



中国で育ちネイティブの中国語を話せることから、トヨタ経営陣が中国の要人と会談するときの通訳を務めたそうです。そして中国進出の尖兵として、中国に赴任し中国政府との交渉に奔走します。



トヨタの社長、会長を務めた奥田碩に認められ、2001年に豊田章男が中国も含むアジア本部本部長に就任する際、その手助けを頼まれて再度中国の地を踏みます。そこで得意の中国語を使い政府関係者との関係を築きトヨタ中国の業績拡大に貢献することになります。



その結果を受けて豊田章男は本社に凱旋します。そして後にトヨタの社長を任されることになりました。豊田章男の父章一郎はこれに感謝し、服部さんを役員にすると約束したらしいのですが、これは反故にされます。



実は奥田碩は、創業者の一族だからという理由で社長になることには反対の立場でした。「章男君程度の社員ならば、トヨタにはごろごろいる」と言ってはばからなかったようです。豊田章男を中国の責任者にしたのは、中国で失敗すればトヨタ社長の目はないぞということを知らしめたかったのです。



それにしても苦労の末、27歳で中国から帰国し、トヨタで役員待遇まで出世したのはすごいとしか言いようがありません。一方で周囲の評価は必ずしもいいものばかりではないともいいます。中国生まれの怪人としてうさんくさく見られていたようです。中国人として育ったことから日本人の謙譲の美学というものがなかったのかもしれません。自らの功績を誇るところがあったということです。



2018年に顧問としてトヨタでのサラリーマン生活を終えますが波乱万丈の半生だったといえるのではないでしょうか。改めて人生を考えさせる書籍でした。