ロ短調ミサ曲はバッハ最晩年の総決算的作品であり、彼の対位法技法・宗教的精神・形式美のすべてを結晶化している。グレゴリオ聖歌風の様式からイタリア風オペラ的アリア、ドイツ・ルター派的コラール様式まで、17〜18世紀の音楽様式が高度に融合している。宗教儀式音楽ではなく、純粋に音楽芸術として構想された普遍的な作品。「ミサ・ソレムニス」やモツレクと並び宗教音楽の三大傑作のひとつ。ブリュッヘンはこの頃すでにピリオド・アプローチの大家とされ、18世紀オーケストラの響きは「透明でありながら豊かな表現力」を持つと評されていた。このCDは彼が満を持して正規録音として発表した初の大規模バッハ宗教曲であり、かつ自身の芸術的集大成と見なされる演奏のひとつだった。ソリストの選定や合唱団、18世紀オーケストラの成熟度が非常に高く、ライヴ収録とは思えない構築美と精神性で、当時のピリオド演奏界に衝撃を与えた。その意味でバッハ演奏の金字塔である。

J.S.バッハ

ロ短調ミサ曲 BWV.232

　ジェニファー・スミス（ソプラノ）

　マイケル・ チャンス（カウンターテナー）

　ニコ・ヴァン・デル・ メール（テノール）

　ハリー・ヴァン・デル・カンプ （バス）

　オランダ室内合唱団

フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ

録音：1989年、ユトレヒト（ライヴ）

フィリップス海外（USA）盤（1990年製造）