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廃墟に乞う（直木賞受賞作）　

　主人公は刑事・仙道で、過去の捜査の際に精神的にトラウマを受けて療養中です。しかし彼の友人や知人たちからとかく頼られて多くの事件に首を突っ込むことになります。休職中ですから仙道は警察手帳も拳銃も持っていいません。捜査は地道な聞き込みと、現場の観察に限られており、しかも依頼者のために捜

査を個人的に行うという全く探偵的な方法をとるのですが、その思考は警察的で実は真実を追っているのです。

　また派手なアクションがあるわけでもありません。全部で六編の短編からなっているが、中でも表題作である第二話「廃墟に乞う」は、かつて栄えたものの今では荒涼とした炭鉱の町が、犯人の人格形成に大きく影を落とているという構成になっていて、その心理と風景の描写が上手く描き込まれています。

派手なアクションも、工夫されたトリックも登場しませんが、事件に隠された人間模様を暴き出す渋い玄人刑事の落ち着いた描写が上手いです。



警官の掟

暴力団の幹部が射殺された事件を追う所轄の蒲田署の波田野・門司刑事。事件そのものはヤクザの抗争関係と目されたため簡単に解決すると読んでいましたが、被害者の周りには有力な怨恨関係が見当たりません。一方、警視庁捜査一課の松本、綿引は警察内部の内偵の密命を帯び、同じ殺人事件を過去の関連時間から追います。実は波多野と松本は同期の警察官でお互いに修羅場を抜けた親友同士という伏線があります。

中盤は所轄・捜査一課のそれぞれの地道な調査や聞き取りが交互に描かれ、単純と思われた事件が意外に奥が深く、淡しいやつらにはアリバイがあったり、動機がなかったりとなかなか容疑者にまでたどり着きません。死体の解剖を担当した解剖医からの情報で連続殺人の可能性が浮上してくるのです。2組の捜査が交差するとき意外な真犯人と怒涛のクライマックスが待っています。