1977年111ページ

はじめに
子供のとき,天井や茶だんすの木目を眺めなが ら、幻想の世界に遊んだことを思い出します。 け やきの板は巨人のへばりついた絶壁のようでした。 あのころは薪を使っていた時代なので,台所には 雑木の束がありました. それを使って、気楽にい ろいろないたずらをしたものです。 舟の形に切っ て帆を立てて・・・・...
近所の店で飛行機の模型に使う朴 (ほぉ) の木が 売られていました. うちの薪にくらべるとずい ぶん上等の木に見えたものです. 紙やすりをかけ たなめらかな曲面は, うっとりするほどきれいで した. 店先で削っているおじさんは、ハワイ・マ レー沖海戦の映画のセットを作ったんだといって いました.
家にあった奈良彫り風のおみやげ人形一ざっ くり切られた面のつながりを, 不思議な気持ちで 眺めたものです. あれは確かに職人の技に対する
賛嘆の念だったと思います。
みなさんにも木の思い出があるでしょう. 新しい材料が,もはや新しいものでなくなって 現代に〈木〉が再び見直されるようになりま した. しかし, そのときには, 木が高価なものに なっていたとは皮肉なことです。
私は、絵の勉強から始め, 人形の桐塑に手を染 め,そしてしばらくぶりに、今からそう遠くない 日に木彫を始めました. 刀で木を切っていると, 目の前に広がる生命の変化に心をうばわれ, 作り たいものが頭の中にたくさんつまってきます. 彫 っていればなんでもよいのですが、やはり人間の 形がいちばんむずかしくて、またいちばんおもし

表紙傷、小汚れ。ページ小黄ばみ。

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