バッハ

①トッカータ ハ短調 BWV.911

②パルティータ第2番ハ短調 BWV.826

③イギリス組曲第2番イ短調 BWV.807



マルタ・アルゲリッチ（ピアノ）

録音：1979年2月ベルリン



ここには怒涛のように豪快且つ自由奔放に鍵盤の上を疾走するジャジャ馬アルゲリッチの姿はありません。静粛に厳かに、1音1音の意味を語るがごとしの内省的な音が大半。時折いつものアルゲリッチが出てくるもののそれは抑えたもの。私だって心の内面を掘り下げる音なんて簡単にピアノで出来るのよって微笑んでいるかのよう。おとなしい音にも関わらずアルゲリッチの個性は十分に出ています。その魅力たるやどれだけのものか。アルゲリッチのピアノの魔法にかかったかのようです。



アルゲリッチのこの演奏に関しては、バッハ独特の内面から湧き出るような歓喜の表出を意識しながら、十分に考え抜かれたパフォーマンスを披露していることが分かります。音をほとんど響かせずに鍵盤タッチの自在な変化で、心憎いばかりの表現をしています。おそらくテンポ設定は他の誰よりも速いですが、それがこんこんと沸き流れでる泉のような音のイメージとなっており、聴き手には暖かな幸福感と愉悦を与えてくれます。この演奏は、それまでのアルゲリッチの印象を一変させてくれるもの。面白いことに、ジャケットの写真もそれまでになく柔らかな優しい表情になっており、それが演奏の雰囲気と重なっている。グラモフォンの演出もなかなかのものです。これは他の誰にもマネができない、希有なバッハ演奏といってよいでしょう。素晴らしい名盤であることは間違いなく、録音も素晴らしいです。



バッハのトッカータ、中でもBWV911が大好き。というよりも、この演奏を聴いてバッハのピアノ曲が好きになったといっても過言ではない。アルゲリッチの弾くバッハは、まぎれもなく「バッハ」なのだが、バッハ特有のあのいかめしさや数学的な香りがあまりしない。ゆっくりと優しく、一音一音を確かめるように弾いたかと思うと、一気呵成にメロディをドライブし、聴く者を、静寂から喧噪へそして黙考へと誘う。



輸入盤、盤面傷無し 10



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